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人生で腰が抜けた瞬間1・2・3

腰が抜ける経験をした人は意外と多いと思いますが。今回は私が人生で三度経験した腰が抜けた話をしたいと思います。

AIによると恐怖とショックで腰が抜けた状態になるらしいですね。

 

1:マネキン

 

子どもは〇ン〇ンが好きだ。そもそも言葉の響きが大好きだ。

〇ンコ、〇ンポコなど色んな言い方があるがどれも〇ン〇ンにはかなわない。

その言葉を聞くだけで世界は光り輝き、場の空気は一気に明るくなって子どもたちは破顔する。

いや、子どもの中でも特に男の子がその言葉の虜になっているのかも知れない。

「人前でそんな恥ずかしい言葉を言っちゃいけません」と言われれば言われるほど禁断の蜜の味は増す。もはや病気だ。

発症は齢3つから4つぐらいの頃だろうか。

他の無敵ワードに「おなら」や「〇んち」などがあるが、どれも専門家に言わせれば成長過程においてはごく当たり前で注目されたい気持ちから発せられる一面があるらしい。

 

平日のある昼下がりの人出もまばらな小さなデパートに3歳の俺は母親と来ていた。

婦人服売り場にいる母から離れて俺は無意味な確認作業を始めることにした。

三階の紳士服売り場の床にしゃがみこんで「よし!」「よーし!」「これもよし」...「これはダメ」..検品よろしく洋服を着たマネキンの股間を握りながら力士が摺り足で前進するようにそれが付いているかを確認していた。

この場合、股間に〇ン〇ンの硬いふくらみが付いているのが「よし!」で正解という意味だ。

カジュアルコーナーからスタートしてスーツ、礼服コーナーと3歳の子どもは前進を続けたが、小さな子どもがしゃがみこんでの前進だから大人たちは誰も気がつかない。まさかそのような行動をしていると思う由もない。

「よし!」...「よし!」...「ダメ!」...

やがて、ワゴンセールのコーナーに差し掛かかった。その先にはワゴンに山積みのシャツを手に取って突っ立っている一人のおじさんサラリーマン。

 

いや、、、言い訳になるが悪気はないのである。

ただマネキン人形にそれが付いているかどうか確かめていただけなのだ。

 

ここからは少しでも罪を軽くするために3歳児ことばで書かせてほしい。

「よち!」「こでもよち!」標的はどんどん近づいてきた。

おじさんはこちらに気づく様子もなく両手に持ったシャツを見比べている。

これまでの人生において他人の股間を握った経験はあの時の他にはなかったと思う。

そして、あのふにゃっと柔らかな感触を生涯忘れたことはない。

 

「よち!」....「よ...?」「あ?......あわっ?...」

一瞬空気が止まった。辺りが暗くなって冷たいものが全身を包んだ..

手に触れたものが温かい、しかも柔らかい...

頭の上からもの凄い殺気を感じて見上げるとおじさんが真っ赤な顔をして無言で睨みつけている。

その時、たぶんおじさんは怒りでわなわなと震えていたと思う。

【殺される!】そう感じてその場から逃げようとしたが、恐怖と驚きで声が出ない。

スリスリスリッ...腰が抜けて立てない俺は背面で這うようにしてもがいた。

 

紳士服売り場でおじさんは「氣」で俺を制圧していた。

 

 

 

2:サファリパーク

 

あれはたしか8歳か9歳の夏だったと思う。人生で唯一の家族旅行での出来事だ。

当時は「南紀白浜サファリパーク」と呼ばれていたと記憶しているが記憶違いかも知れない。

今はアドベンチャーワールドと呼ばれているらしい。

実はその時の恐怖の記憶が大き過ぎて旅行全体の記憶もサファリパークの他の記憶もない。

初めての大阪の記憶は駅のホームで騒いで叱られたことぐらいだ。

たぶん初めての家族旅行が嬉しくて舞い上がっていたんだと思う。

とにかく、大阪駅で乗り換えて和歌山県へと向かった。

 

翌日だったのか、移動日当日だったのかも記憶にない。

サファリパークに到着後、色んな動物たちを見てひと通り楽しんだ。

まだ開園して歴史が浅く、今のようにパンダもおらず動物の種類も少なかったと思う。

「小動物と遊ぼうコーナー」に妹が行きたいというので兄として付いて行ってあげることにした。

そこにはうさぎやモルモット、ヤギやひつじなんかも居たと思う。

柵で囲まれた広場は小さな子供たちで賑わっており、めいめいに動物と触れ合ったり追いかけっこをしたりしていた。

 

メエ~メエ~...ヤギはあの横に細長い眼球が苦手だなぁ。

食うことだけしか考えていない、そんなふうな目をしてひたすら草を食っている。

ピョンピョン飛び跳ねてやって来たうさぎに目線を合わせて妹が顔をのぞき込んでいる。

とくに可愛いと思うような小動物はいないなぁ..そう思いながら周囲に目をやるとニワトリがいるではないか。

ケ~コケ~ケ~...コッコッ...

なんでこんなところにニワトリがいるんだ?

ふ~ん、動物が足りないから無理やりニワトリも小動物コーナーの仲間に入れてるのか...そんなことを考えながらぼんやりと子供たちを眺めていた。

 

 

それまで俺はその動物を見たことがなかった。

いや、正確には食べたことはあるが生きて動いているところは見たことがなかったのだ。

大人になった今、小動物コーナーの仲間にあの生き物を入れた運営に猛烈に抗議をしたい。

 

俺は小動物の赤ちゃんを撫で撫でしていた。

奴を見たら悲鳴のひとつぐらい上がっていてもおかしくないが、小さい子どもというのは実に視界が狭い。

うまく子ども達の視線をかい潜り奴は一歩一歩俺に近づいて来た。

急に俺の頭上に影が出来て辺りが暗くなった。

 

皆さんは七面鳥を見たことがあるだろうか。そう、あの黒い大きな鳥だ。

体調は優に一メートルを超える、なんなら8歳児の身長ぐらいはある。

そして...あの顔である。血行が悪いのか皮膚の色は青や紫だ。

おまけに鼻が溶けてぶらぶらとぶら下がっている様にみえる。

 

「宇宙人だ!」見上げた俺は気絶しそうになった。

何が起こったか理解が出来ずに俺は後ろに倒れてしまった。

逃げようともがくが腰が抜けてしまって下半身が動かない。

ズリッ..ズリ..ズリッ...

ズリ....ズズッ.....

 

あの日の旅行以来うちで流行った遊びがあった。

黒いジャンパーを羽織って、赤い靴下を片手で持って鼻の辺りでぶらぶらさせながら中腰で追いかける遊びだ。

 

 

 

3:月光仮面

 

そのヒーローを俺は知らなかった。なんでも昭和のヒーローらしいのだが...。

そのヒーローが実際に現れるらしいと町では噂になっていたのだがレアなことで実際に見たという人は俺の周りには誰もいなかった。

「へ~どんな格好をしてるの?」「マスクをしてタオルを巻いてゲッコウカメン!と叫びながら自転車に乗ってるらしいよ」

なんだそりゃ、変なやつじゃないか..。「ゴミ袋を持って空き缶拾いやゴミ集めをするんだってさ」..清掃員かよ。

これが隣の市で実際に見た人の目撃証言らしい。

 

それから一年ぐらい経っただろうか...季節は春になって俺は月光仮面の話などすっかり忘れていた。

そのころ小さな工場が建ち並ぶ寂れた細い一本道を自転車で走るのが夕方の日課になっていた。

陽が傾きかけたその日、いつものように工場の方へ自転車に乗って出かけた。

廃工場の裏手にある人の気配が全くない道をゆっくりと走っていた。

特に悩みがあるわけでも落ち込んでいるわけでもなかったが、斜陽のあの物憂い感じが落ち着いて好きだったんだと思う。

ガシャン..キコ...カランコロン...ガシャン...キーコ...ガ...ガ..

遠くで小さな金属音が聞こえてきた。

特に気にすることもせずのんびりと自転車をくねらせながら夕景を楽しんでいた。

ガシャガシャ...キーコ...カランコロン...キーコ...

ガッシャン...キーコ...カランコロン...キーコ...コーカメ....ーカメン

ガッシャン....キーコ...カランコロン...コーカメ....ーカメン

軋んだ音が近づいてきた。空き缶を載せた古い自転車を漕ぐ音だ。大声で何か叫んでいる。

「コーカメ...」ガッシャン..カランコロン...「..コーカメン!!」なんだ?一体何を叫んでるんだ?

後ろを振り返ると、白いタオルを頭にグルグル巻きにしてサングラスにマスク姿のどう見ても変態の男が猛烈なスピードで近づいて来る。

その時、一年前に聞いた忘れかけていた話が蘇ってきた。

「ゲッコーカメーーン!」「ゲッコーカメーーン!!」

なに!??間違いない奴だ。

夕陽を浴びて左右に大きく自転車を揺すりながら近づいてくるその男は...月光仮面だ!!

逃げろ!!俺は心の声に従った。

「ゲッーーーーコーーーーカメーーーン!!」ガシャン..ガッコン...怒鳴りながら距離を詰めてくる!

廃工場の裏通りで追う者と追われる者の二つの影がうごめく。

ガシャン..「はぁはぁ」ガコン..「ゲッコーーーカメーーン!」「はぁはぁ」...

だめだ、もう捕まる!その時、腰が抜けて俺はペダルを踏み外した。

「あ!!」ガラガラガッシャーン!!ズズズーーッ....倒れた自転車はそのまま地面を擦ってすっ飛んだ。

あぁもうダメだ!!転がりながら俺は観念した....が...

ガッシャン...キーコキーコ....カランコロン...

....コーカメン...カランコロン...ゲッコー...キーコ........

 

「はぁはぁはぁ...」何だったんだあれは...

俺は月光仮面が遠くに消えていくのを呆然としながら見つめていた。

横になった自転車の車輪が回り続けている...「助かった...」俺は思わずつぶやいていた...。

倒れた俺の横を月光仮面は見向きもしないで素通りして行ってしまったのだ。

西陽を浴びた屋根の上で鳴いていたカラスが飛び去った。

 

俺はこれをヒーロー物ではなく【恐怖体験】として世間に正しく伝えていくことを誓った。